夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)
「いや。
軽薄な先輩の尻ぬぐいは、後輩の役割なので問題ありませんよ」
にっこりと笑って、資料を碧の手から取り返すと、椅子に座った。
「この手書きの数字を、この一覧表に入力すればいいんですよね?」
まだ碧が躊躇している雰囲気が伝わってくる。
「あの調子のいい先輩と違って、僕は手が空いているので、大丈夫です」
それ以上、碧の反応を見ずに、カーソルが点滅している部分から入力を始めてしまう。
「ありがとうございます」
礼を呟いて碧は向かい側の席に戻って行った。
入力元の紙には、画面と同じ表がプリントアウトしてあり、細かい数字がびっしりと手書きで書きこまれている。
間違えないように入力するのは気が張る。
たった1枚を入力し終えるのに、相当な時間がかかることがわかると、うんざりしてきた。
藤井が逃げ出したのが良くわかる。
でもここで自分も体よく逃げ出したら、この人が一人で全部やるんだろうな。
ちらりと目線を動かすと、積み重なった書類の隙間から、同じ作業をしているのが見える。