夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)
いつも通り駅を降りると、商店街を抜けて住宅街の方向へ歩く。
昔から高級住宅街で名が通っているだけに、都心の真ん中なのにゆったりとした区画だ。
相続で切り売りをされる問題も起きているが、自治会が強くてなんとか雰囲気は保たれている。
宗雅は鉄製の門のカギを開け、小さい頃はシェパードが駆け回っていた庭を横切る。
家のドアを開けると、10畳ほどの玄関ホールは煌々と明かりが点いていた。
玄関のたたきには宗雅のスリッパがそろえて置いてある。
それをつっかけると、いつも通りそのタイミングで上から声が降ってきた。
「まーくん?
お帰り」
「ん、ただいま。
お休み」
「おやすみなさい」
階段を見上げると、母の静香は微笑して寝室へ下がって行った。