白衣の王子に迫られました。

 職員食堂のある二階から外科病棟のある六階まで階段で上る。

日頃の運動不足がたたり、たった四階の移動で、息が上がってしまった。

(キッツ! ……年かな)

苦笑いしながら廊下を進む。すると、少し前を歩く森下君の姿を見付けた。

患者さんの歩行訓練だろうか。時折声を掛けながら、優しい微笑みを浮かべている。

さすが王子スマイル。完璧すぎて眩しい。

森下君は仕事中、笑顔を絶やさない。それは意外と簡単じゃなかったりする。

私たち医者もそうだけど、忙しいとつい、笑顔を忘れがちになってしまうから。

例を出して悪いけど、春野さんなんてすぐ顔に出るから、ぶーたれた顔で患者さんの対応をしていることが多い。

まあ、そんな時は直ぐ師長にみつかって、お説教タイムに突入だ。

でも、その後はさらに不機嫌になるから目も当てられない。

自由な春野さんを羨ましく思う時もあるけど、私はああはなれない。

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