白衣の王子に迫られました。

ベッドを押してエレベータに乗り込む。酸素ボンベと生体情報モニターを載せているから重いのだ。

急変だってあり得る。

ほんと、森下君が来てくれて助かった。

外科病棟について廊下を進んでいると、ナースステーションのカウンターの前に座っている春野さんと目が合った。

忙しいとは程遠い様子で、通販のカタログをペラペラとめくっている。

私は思わず彼女を睨みつけた。

すると小さく舌打ちしながら廊下に出てくると、患者さんに向かって「検査お疲れ様でーす」なんて声を掛ける。

調子が良すぎる。腹の立った私は、春野さんに言う。

「ベッド、通れないからどいてくれる」

すると春野さんは森下君向かって「先生怖~い」と肩を竦める。

それから患者さんには聞こえないような声で私にこういった。

「私に断られたから、森下に泣きついたんですか? 彼も忙しいのにかわいそう。先生って男に媚びるのが上手なんですね」

よっぽど言い返そうかと考えたけれど、さすがに今ではないと思いなおす。

「……行きましょう、森下君」

ベッドのフレームを握ると、私はまた歩き始めた。

< 58 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop