白衣の王子に迫られました。
ベッドを押してエレベータに乗り込む。酸素ボンベと生体情報モニターを載せているから重いのだ。
急変だってあり得る。
ほんと、森下君が来てくれて助かった。
外科病棟について廊下を進んでいると、ナースステーションのカウンターの前に座っている春野さんと目が合った。
忙しいとは程遠い様子で、通販のカタログをペラペラとめくっている。
私は思わず彼女を睨みつけた。
すると小さく舌打ちしながら廊下に出てくると、患者さんに向かって「検査お疲れ様でーす」なんて声を掛ける。
調子が良すぎる。腹の立った私は、春野さんに言う。
「ベッド、通れないからどいてくれる」
すると春野さんは森下君向かって「先生怖~い」と肩を竦める。
それから患者さんには聞こえないような声で私にこういった。
「私に断られたから、森下に泣きついたんですか? 彼も忙しいのにかわいそう。先生って男に媚びるのが上手なんですね」
よっぽど言い返そうかと考えたけれど、さすがに今ではないと思いなおす。
「……行きましょう、森下君」
ベッドのフレームを握ると、私はまた歩き始めた。