白衣の王子に迫られました。

「……なに、してるんですか?」

その声に私は顔を上げて、入り口の方を見た。

そこにいたのは、森下君で、彼は空き部屋に私たちがいたことに驚いた様子で目を見開いたままその場に立ち尽くしている。

「入院が入るんで、部屋の準備に来たんですけど……お邪魔でしたね」

森下君はそう言うと、部屋の出て行こうとする。

「ち、違うの! 誤解なの!」

私は、ベッドから起き上がると森下君を追いかけようとした。でも、香月君に止められる。

「まって、千穂」

「なんでよ、離して!」

「その恰好で外に出る気?」

「……あ」

触診してもらうために緩めたズボンと、捲り上げた上着。確かにこのまま廊下に出ていい訳がない。

「そうだね、ごめん」

身なりを整えて廊下に出た時には、もう森下君の姿は見えなくなっていた。

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