白衣の王子に迫られました。

私はまず、ナースステーションを覗いた。

「あの、すみません。森下君は?」

近くにいた看護師さんに声を掛ける。

「あれ? 入院の準備に行ったはずなので、2号室の個室にいるとおもいますよ」

個室……ね。そこにいないから探しているのだ。

「そう、ありがとう」

私はお礼を言ってまた廊下に出た。

森下君の誤解を解かなくては。そして、昨日のオムライスを食べることができなかったことを謝らないといけない。

そう思い、病棟中を探す。

ようやく見つけたのは器材室の前。私はドアから半分だけで出ている彼の腕を掴んだ。

「見けた!森下君、さっきのは誤解なの! 話を聞いて!」

「……先生。何か用ですか?」

驚いた様に振り返った彼の目は、冷ややかに私を見下ろしている。

でも、私は怯まずに話を続けた。

「あのね、あれはそう言うんじゃなくてね……その」

言いながら口ごもったのは、香月君の秘密を話すわけにはいかないと思ったからだ。

「なんなんですか、もう。仕事の邪魔しないでもらえます?」

振り払われた手が空しく宙を掻く。同時にドアを閉められてしまい、私は仕方なくナースステーションに戻ることにした。

そろそろ、朝のカンファレンスが始まる時間だ。



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