手紙は時を駆け抜けて
あのもどかしい距離感は、今だって鮮明に思い出せる。
*・*・*・*・*
樹の姿は、いつも緑色の網の目の向こうで煌めいていた。
網の目には到底おさまりきらない、夕日で焼けたグラウンド。
白いホームベース。
そこに低くしゃがんだ、誰よりも広かった白い背中。
一直線にくりだされた白球。
その時、美しい音は空にまで轟いたのだ。
彼のミットへすっぽりとおさまった剛速球。
爽快な音に打ち抜かれて私は目を輝かせた。
彼のかまえるミットには、いつだって魔法がかかったみたいに球がおさまったんだ。
そして、白く輝く大きな背中の彼がすっくと立ち上がってチームメイトに手を振れば、みんなが笑顔で駆け集まってきたんだ。