手紙は時を駆け抜けて
彼は大きな背中を丸め、膝にノートを広げ、仲間の去ったグラウンドにひとり残っていた。
小麦色に焼けた肌、がっしりした肩、細いペンを握る武骨で大きな手。
彼のひとつひとつに、いつだって目が向いた。
そんな手がちまちまと走るノートには、黒い文字がきっちりと埋め尽くされていることくらい知っていた。
そう、彼はそういう人だった……。
「よっ、樹キャプテン様! 関東大会への自信はいかほどですかっ!」
お調子者の康太は、ノートを取る彼に直撃し、彼の口元へマイクを握っているみたいな拳を向けた。
得意顔でにたにた笑った康太は、野次馬記者みたい。
「ふはっ! やめろってば、康太。明日はまだ県大会の決勝だ。康太は、気が早いっつうんだよ」