手紙は時を駆け抜けて
眼鏡のフレームの影が落ちる白い頬に、煌めく雫が流れていた。
「なんで……」
口は勝手にうわ言を呟いている。
「放して! 放してよ!」
私のよく知る、あの愛らしい小さな唇ががむしゃらに叫ぶ。
私の手におさめられた腕が、大きく揺さぶりながら足掻く。
信じられなさ過ぎて、目眩がしそう。
足元が揺らいで倒れそう。
「ねえ、何で逃げたの? 何で私の顔見てくんないの……?」
前触れもなく、瞼の縁に涙が溢れかえっていく。
私は手首を握りしめる手を振り上げ、抑えきれずに声を張り上げた。
「ねえ、詩織! 答えてってば、詩織!」
私のにじむ視界が捉えていたのは、今にも泣き崩れそうなのを堪えて下唇を噛み締める、詩織の顔だった。