手紙は時を駆け抜けて


私たちはきっと間違っていたんだ。

わかっていた、私たち全員が無理して樹の名を口にしないようにしていたこと。

心の傷口を広げないように、私たちは心の中でまで樹を押し殺そうとしていた。

私たちの、とても大切な人なのに。

私たちは酷く臆病者で、逃げ続けてきた。

みんなみんな、樹への想いを胸に抱えこんでいるのに。

たくさん言い訳してきたけれど、それでいいはずがなかった。

今更気づいた。

手に握りしめたあの謎の手紙から、力がみなぎってくる。

生きているんだと訴える心臓が、私を内側から叩きつける。

時間よ、心よ、今こそ走り出せ。

私は力いっぱい息を吸い込んだ。

「私は前へ進みたいの。樹のこと! 私たちケリをつけなくちゃいけないの」

茜色の夕日が、一気に潤んだふたりの瞳を照らし出した。


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