手紙は時を駆け抜けて


康太は凍りついたように止まり、私も口を開いたまま声が出ない。

涙の煌めきのはずなのに、全くの別物のよう。

その眼差しは背筋がぞくりとするほど冷たい。

詩織は先程まで噛みしめていた唇を無理にしならせ、微かに笑う。

「私いい子だって思われるの疲れたの。可愛い? 素直? そんなのウソだ」

喉が張り裂けそうな、ひび割れた声で詩織はすごむ。

「その手紙は本物よ。樹から、明日香に渡してくれって頼まれてたのに、私がずっと隠し持ってた!」

ほの青い夕空の前で、少女の影が苦しげに捩れる。

そして彼女はそっと顔をあげて、私たちをとらえた。

「最低でしょ……? 中身も勝手に読んで、悪だよね……」


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