手紙は時を駆け抜けて


消え入りそうな声が、冷たく青みがかった無機質な教室内に広がっていく。

そんな空気に、肌がひりつく。

動揺して瞳は揺れる。

だって、私たちの方を向いた詩織のメガネの内側には、悲しみの結晶がたまっりきっていたから。

でも、詩織は尚、その崩れそうな細足でふんばり続け、机の上の手紙を覚束ない手で指し示す。

「高一の時も、高二の時も、秋の県大会勝ち抜いたら渡してくれって、よりによって私に……。それも、あの後夜祭に誘うの、何で私じゃなくて、明日香……」

華奢なメガネごと彼女は両手を勢いよく押しつけて顔を覆う。

「だって、イヤだった。樹のこと昔からずっと好きだったのは私なのに、樹は明日香のことばっか見てた。私はいつも子供だましみたいに、頭撫でられるだけだった。だから、だから私……」


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