手紙は時を駆け抜けて
同じ人を想ってしまった詩織と一緒に、涙が出るの。
詩織は髪を振り乱して、悲痛な声をあげる。
「でもそうしたらっ、樹にもう……」
「やめてくれよ、詩織……。責めんな、自分ばっか。かっこ悪いの自分だけと思うなよ」
そんな詩織の声を、やわらかな声が打ち消した。
詩織のかたわらで、大きな体を折り曲げ、ちょこんとしゃがみこむ康太の姿。
ただ涙を流す彼女に捧げられた、ハの字眉の情けない笑顔。
そして、物言わず右手がさしだすハンカチ。
普段女の子を口説こうとする時よりももっとかっこ悪いのに、彼女だけに注がれたぶれない瞳に、私まで心が動く。
まったくなってないのに、彼女だけを想う王子様みたい……。
康太はその格好のまま、誰へともなく呟き始める。