僕は、君が好きです。
「あ、泰詩…。」

真凛は小さな声でそう言うと

一瞬入るのをためらう様な素振りを見せた。

でもすぐに意を決したように

教室の中に入ってきて

ごそごそと何かを探し出した。

沈黙…。

こんなに廊下や辺りは賑やかなのに

準備室には何かを探す音だけが響いている。

俺も自分の探し物をする。

まるで、それだけを考えているかの様に…。

本当は…

俺の全神経は真凛の方に傾いているのに。

俺は、ベニヤ板を見つけると

何枚か運ぶために一枚ずつ移動させていく。

最後のベニヤ板を移動させた時

ふと真凛の方に目をやると

真凛はまだ何かを探しているようだった。

そのまま…

ベニヤ板を持って

黙って出ていく事もできた…。

でも、やっぱりそれはできなかった。

俺は、気づいたら声をかけていた。

「見つかった?」

「え…?」

「何か取りに来たんだろ?」

「あ、うん…刷毛が見当たらなくて…。」

「刷毛?」

「今ね、模擬店の看板を塗っているんだけど

間違って違う色を塗っちゃって…

修正するのに細い刷毛がなくて。」

そう言って真凛は少し困り顔で俺を見た。

久しぶりに真凛の顔を正面から

見た気がする。

その顔はやっぱり可愛くて

愛らしかった。

今日は肩に伸びた髪を一つに束ねて

少し雰囲気が大人びている。

君をずっと見ていたい…。

そう思っていたけどいつものように

少し突き放した言い方をする。

「相変わらずドジな?」
< 100 / 212 >

この作品をシェア

pagetop