僕は、君が好きです。
「やべ…っ!!」

そう言って席を立ち上がったのは

泰詩だった。

「おい!泰詩…

お前ズボンびしょびしょじゃんっ!」

佐伯くんが驚いた声で

泰詩のズボンを指差している。

「マジかぁ…!」

「ねぇ、そこの女子~悪いけど

おしぼりもらってきてくれない?」

佐伯くんが部屋を出ていこうとした女子に

手を合わせながら声をかけた。

「あ、うん…わかったぁ~!」

頷きながら女子達が部屋から出ていく。

暫くしてがおしぼりを持って店員と

一緒に部屋に帰ってくると

すぐに絵莉ちゃんが泰詩の方に

駆け寄っていく。

「仲原くん大丈夫…?」

「ああ…ありがとう…。」

泰詩と絵莉ちゃんのやり取りが続き

周りの人が泰詩の周りに集まって

店の人が割れたグラスを

片付け終わる頃には

さっきまでの険悪な雰囲気が

まるで嘘のように

和らいで騒動があやふやになっている。

「岸田さん、もう大丈夫だからいいよ。」

そう言いながら絵莉ちゃんの顔を泰詩は

見上げた。

「あ…うん。」

絵莉ちゃんも自分の席に戻るといつの間にか

私の前にいた女子も席に戻っていた。

「じゃあ、仕切り直しで…誰か曲入れる?」

そう佐伯くんが言うと

渋谷くんも自分の席に座った。

すると急に泰詩がマイクを持って

曲を入れた。

「おっ、泰詩が歌うなんて珍しい~!」

佐伯くんが笑いながら盛り上げる。

泰詩の曲が始まると急に絵莉ちゃんが

私の方に近づいてきた。

「絵莉ちゃん…?」

私も絵莉ちゃんの顔を見ていると

絵莉ちゃんが私の耳元で

部屋の外に出るように話す。

「こっちに来て…」

絵莉ちゃんは、部屋から少し離れた

場所に私を連れていった。

「絵莉ちゃん…どうしたの?」

「真凛…

さっきの話だけど…

今日の忘年会の事…

本当に聞いてなかった?」

「え…うん…っ。」

「そっか…多分、美沙達かも…。」

「田所さん…?あっ、そっか…うん…

大丈夫…気にしてないよ。」

「何で…?」

「え?何?」

「何でそんな平気なフリするの?」

「私…嫌われちゃってるから…

私…ダメだよね…どうしてかな…。」

「……」

私がそう言って少し笑いながら

絵莉ちゃんの顔を見つめると

絵莉ちゃんは、私の顔をじっと見つめて

そして自分の顔を片手で少し覆うと

「どうしていつもそうなの?…」

絵莉ちゃんの呟きが聞こえた。

「絵莉ちゃん?」

「…もう…わかった…っ。」

「…え?何?」

「…真凛のそういう所だよ…

曖昧で…自分の本心を黙ってて

何を言われても平気って顔で…

だから…

女子に嫌がらせされるんだよ?

今日も…

美沙達がまさか…

こんな事するなんて思わなかったけど

そもそも真凛が…

仲原くんに頼りすぎるから…

仲原くんは優しいから

真凛の事ほっとけなくて…

助けるしかないじゃん…!

悲劇のヒロインになりたいの?

どうして自分で何とかしないの?」

「絵莉ちゃん…」

「そんなんだから

男好きとか言われるんだよ?」

「……男好き…?」
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