僕は、君が好きです。
「ねぇ、仲原くん!!

絵莉と付き合ってるんだってぇ~?」

「…えっ。」

「もうクラスの皆が噂してるよ~!!」

「ね~!!」

「そ…それは…」

俺が言葉に詰まっていると

隆司が横から話し出した。

「はぁー?

何だよそれ、ガセだよガセ…

泰詩は、岸田ちゃんとは

付き合ってねーよ!」

「…え~!?そうなの?

照れない照れないっ!

お似合いだよ~!

クラスの女子が絵莉なら

しょうがないって言ってたよ~?」

「はぁ?何だよ…その言い方…気に入らねーな

何か超ムカつくわぁ~っ!

泰詩が誰と付き合っても関係なくねー?」

そう言って隆司は、教室に歩き出した。

「…おいっ、隆司!」

隆司の後を追って教室に入ると

教室が一気に沸き上がった。

黒板に目をやると誰が書いたのか

俺と岸田さんの名前の上に

ハートマークが大きく描かれていた。

バカみてぇ…ガキかよ?

俺が呆れながら、黒板を消しに行くと

俺と岸田さんの名前の下の方に

小さい文字で

真凛の名前も書いてあった。

"うざいストーカー女、市ノ瀬"

名前の上に赤いチョークでバツ印が

付いていた。

その文字を見た瞬間…

俺の考えは…

全て間違いだったんだと気づいた。

俺がしようとしていた事は

真凛を守る事には繋がらない…。

「…仲原くん、消すの手伝うよ。」

岸田さんは俺から黒板消しを奪うと

自分の名前を消しだした。

クラスの男子がまた面白可笑しく騒ぎ出す。

そして岸田さんが

俺と岸田さんの名前を消し終わると

真凛の名前も消そうと身を屈めた。

岸田さんは…本当にこれでいいのか?

この落書きを消す事で…

真凛との事もすべて

無かった事にしようとしている。

まるで、何もなかったかの様に…。

友達って…そんな簡単に消せるのか。

…俺と岸田さんが付き合っていると

言いふらした女子達が

ワクワクしたような表情で

この空気を楽しんでいる。

この中の誰かが黒板に

真凛の名前を書いたのに

そんな事なんて全く気にしていない。

これからもまた真凛に嫌がらせを

するんだろう。

俺が岸田さんと付き合うふりでもして

真凛への嫌がらせをやめさせたかった。

でも…そんなの意味ない。

そんな事では、終わらない。

きっかけなんて何でも良かったんだろ?

きっと…

岸田さんと上手くいかなくなったのも…。

ただ…気に入らない者を排除したいだけ。

まるでゲームみたいに楽しんでる。

そんな事に…真凛は巻き込まれた。

"俺と一緒にいた"ただ…それだけで。

俺と一緒にいたから嫌われた。

俺なんかの為に…。

俺は無言で岸田さんを見下ろしながら

その場に立ち尽くしていた。

今、この空気に流されて

俺が何もしなければ俺も同罪だ。

真凛を助ける為に…

俺が引き受けるべき事は

岸田さんとの恋愛ごっこじゃない。

俺、バカだったよ。

ただ…真凛を守りたいだけだった。

また前みたいに笑わせてやりたかった。

でも…そんなの、偽りだ。

真凛が本当に心から笑うために…

やるべき事は他にあったのに。

守るって事は…

たぶん…

悲しみも苦しみもその全てを

一緒に受け入れてやる事だ。

君が受け止めきれない物があるなら

俺も一緒に引き受ける…。

だから…また二人で笑おう。

その瞬間…

俺は岸田さんの手を掴んで

その手からゆっくり黒板消しを奪った。

驚いた岸田さんが俺を見上げる。

「ごめん岸田さん…

やっぱりこの前のなしにして。」

「…え?」

「付き合うフリ、止めるから。」

「……仲原くん…?」

それを聞いていた

周りの女子が騒ぎ出して

一斉に俺の所に駆け寄ってきた。

「ちょっと待って!!仲原くん

何?どういう事?

絵莉に何したの?フリって何?」

「…仲原くんっ、何でこんな事したの?

説明してよ、他に好きな子いるの?

まさか…市ノ瀬さんっっ…?!」

これ以上ないくらいに教室が

騒がしくなっていく。

「…俺は」

そう言いかけた時…

「アハハッッッッ!!!!」

急に教室中に笑い声が響いた。
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