僕は、君が好きです。
「…岸田さん、ごめん。」

そう言って俺は頭を下げた。

……深々と下げた。

頭を上げると、女子が

岸田さんの傍で固まって俺を見ていた。

いつの間にか、クラスの男子も

騒ぐのをやめて俺の方を見ている。

「あのさ…真凛は……

男に色目なんて使えるような

そんな器用なヤツじゃないんだ…。

すっげー鈍感だし、ドジだし

抜けてる所がいっぱいでさ…。

だけど本当に優しくて…

自分の事より他のヤツを

優先しちゃうようなお人好しで

信用できるヤツだよ…。

嘘ついたのは、理由があるはずなんだ…。

岸田さん…信じてやってほしい。」

「……仲原くん」

岸田さんは俺の名前を呟くと

そのまま俺の顔を見つめたまま

ずっと黙っている。

俺はそのまま続けた…。

ここが教室の中でクラス中の人間が

聞いている事は関係なく…話を続けた。

ただこれからもずっと俺が真凛の荷物を

半分、持ちたいって思っていた。

「勘違いしないでほしい…。

……俺が、好きなんだ。

真凛は、俺をずっとただの友達としか

みてなかった。

仲がいい幼馴染みの友達だから

一緒にいただけなんだよ。

俺が言い寄って困らせてた…。

俺が一方的に…ずっと好きだった。

真凛は何も悪くない…。

だから真凛に嫌がらせするのは

もう、やめて欲しい…。」

「おいおい~っ!

仲原が……愛の告白してるっ!」

「いいね~っ!市ノ瀬さんはっ?」

男子が面白がって囃し立てる。

俺はかまわず女子の方を見ていた。

「え…何っ?…何言ってるの?

私達が市ノ瀬さんを

いじめたと思ってるの?…最悪っ!」

「…何かがっかり、仲原くんって…

もっとカッコいい人かと思ったよね…。

仲原くんがストーカーだったんだ…っ。

ウケる…。」

女子が笑いながら話し出した。

俺は黙ってその話を聞いていた。

「そうだよね…言い寄るとか無いわっ。

せっかくのイケメンが台無し…ダサっ!」

その言葉に女子達が笑いだす。

「…あー、何かどうでもいい~

好きにすればって感じ…

似た者同士、お似合いだよね~っ?

ウザ~イ!アハハっ。」

「絵莉~、もう行こうっっ!」

女子が笑いながら歩き出そうとした時

「ばーかっっっっ!」

そう怒鳴りつける声で

女子の笑い声が消えた。

俺もその声に思わず振り返ると…

そこには女子を睨み付けながら

立ち上がる隆司の姿があった。

「…隆司っ。」

「お前らっっ!

本当に男を見る目ねーなっ!

これが、ダサい??はぁ~?

頭のネジ…大丈夫か?

一回ちゃんと閉め直してこいっ!

お前ら…いじめてたじゃんっ。

知らねーって言うなら…

この黒板に書いてあるのなんなの?

"うざいストーカー女、市ノ瀬"

って誰の事?

誰が書いたか調べていい?」

そう言って隆司は

女子に詰め寄っていく。

「…それは…っっ」

女子が言いよどんでいると隆司が

また間髪入れずに話し出す。

「なぁ…

本当に泰詩をダサいって思ってる?

本気で言ってるなら…

マジで頭のネジ緩んでるな。

好きな女を守る為なら

なりふり構わない…

こんな男気溢れるヤツは

そうはいないね。

そんでもって、こんなイケメンだぞ!

マジでダサいって思ってるの?

お前ら…泰詩に告白されたら

絶対付き合っちゃうクセにっ!

付きまとわれたいクセに~っ。」

隆司は女子に近づくと至近距離で話す。

「なぁ…泰詩の近く行ってみるか?」

そう言って女子の腕を掴んで

俺の方に引っ張るフリをした。

「はぁ…?何それ…っ。佐伯くん変っ!」

「何?嫌なの?顔、赤くなってない?」

隆司の得意の茶化しで

女子が慌てて隆司の手を振りほどいて

ザワザワと騒がしくなっていく。

その瞬間…隆司が

俺の腕を素早く引っ張ると

自分の顔を近づけた。

「…早く行けっ!

真凛ちゃん、迎えに行ってこい!

後は任せろっ。」

そう言って俺に目配せした。

俺はその言葉に後押しされるように

教室を走って抜け出した。

「…人間一皮むけば皆、同じなんだよ。

見てくればっか気にしてると肝心な物を

見過ごすんだからなぁ~ばーっか!」

隆司の声が俺の後ろで響いていた。

廊下を抜けて階段を少し下った所で

一時間目の数学の田口に

会ってしまった。

「あ、どうした?仲原…」

「先生すみません…。

ちょっと忘れ物で…家に帰ります!」

「え?何で家っ?あっ、ちょっと待て…」

先生の話を聞かずそのまま階段を下って

靴を履いて校門まで走り続けた。

今度は、何で進んでいるのか

はっきりしていた。

君の所に、俺は走り続けた。
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