僕は、君が好きです。
私の気持ちがあの日からずっとおかしくて
壊れて、とまった様に動かないのに
いつの間にか季節は春から
初夏にかわっていた。
「あー、そろそろテストだね。」
渋谷くんは下敷きで扇ぎながら私を見た。
「そうだね。」
「市ノ瀬さんは勉強進んでる?」
「全然だよ…勉強しないと。」
「そうだ!今度一緒に勉強しない?」
「うん…でも私、即戦力にならないよ?」
「アハハ!じゃあ、誰か誘おう!」
渋谷くんは楽しそうに教室を見渡した。
「岸田さ~ん!」
渋谷くんは絵莉ちゃんの所に
行ってしまった。
渋谷くんはいつも私を笑わせてくれる。
だから楽しい…。
渋谷くんは本当にいい人だ。
だから…楽しい。
でも…たまに私、笑っているのに
笑っていない気がする…。
私…こんなに笑うの下手くそだったっけ?
ふと泰詩の方を見ると
佐伯くんと話しをして笑っていた。
泰詩…
私は泰詩の方を見ながら
‘’泰詩‘’と口をパクパク動かしてみた。
たいし
たいし
たいし
不意に泰詩が顔を上げて
私の方を見て目がバチリと合った。
えっ!今の見られた?!
どうしよう…私
恥ずかしい奴だよね。
あたふたしている私を見て
泰詩はフッて笑った。
そして私の方を見て
バーカ!
ま・り・ん
と口をパクパクと動かして
少し笑うとまた佐伯くんの方を見て
話し始めた。
ドキン、ドキン、ドキン
胸が高鳴る…。
一瞬で、私の胸の奥が弾む…。
「市ノ瀬さ~ん。」
渋谷くんが帰ってきた。
「あっ、お帰り~。」
私は、さっきの気持ちを
かき消すように明るい声を出した。
「岸田さん、オッケーだって!」
「岸田さん、頭いいから
いっぱい教えてもらえるよ。」
渋谷くんはニコッと笑って私を見た。
「だね!やったね♪」
「じゃあ、今度の土曜日とかどうかな?」
「うん。」
「あっ、場所は○×図書館だから。」
「うん、わかった。」
渋谷くんは私の髪の毛を触った。
「えっ?」
「糸がついてたから。」
「あっ本当だ、ありがとう。」
あれ…私
今避けようとしなかった?
渋谷くん、気がついたかな?
チラッと渋谷くんを見ると
渋谷くんは私を見ていてドキッとした。
「あっ…。」
どうしよう…。
「市ノ瀬さん…。」
「何?」
「真凛って呼んでいい?」
「えっ?」
「ダメかな?」
「ダメじゃないけど…。」
「じゃあ、真凛…。」
そう言うと私の手を握った。
「渋谷くん…ここ教室だよ?」
「うん…知ってる。」
「…」
知ってるって…。
皆に見られるっていうか…
恥ずかしいっていうか…
泰詩に見られたくな…い。
私が泰詩の方をチラッと見ると
泰詩は絵莉ちゃんと楽しそうに
笑っていた。
泰詩が笑った顔…
泰詩は私じゃない子にも
あんな笑顔するんだ。
何だろう…この感じ
胸の奥がチクチクして心が重くなる。
何かモヤモヤして気持ち悪い…。
「真凛?」
私の視界にはずっと絵莉ちゃんと
笑っている泰詩の横顔でいっぱいで
隣で私に話しかけている
渋谷くんの声が全然入ってこなかった…。