僕は、君が好きです。
その時…

泰詩は私の両手を掴んで握りしめた。

「真凛…本当の事言えよ…。」

ぎゅっ…

泰詩は私の手を握りしめたまま

真っ直ぐ私の目を見つめてくる。

その濁りのない澄んだ瞳…。

まるで嘘を見透かされてるような

気持ちになる。

「……本当の事だよ。」

私はやっとの思いでそう返すと

泰詩はそのまま私を真っ直ぐ見て

話し出した。

「じゃあ…この前何で泣いてた?」

「え?」

「図書館の帰り…

あの日、俺と話をした後に

何で…泣いたんだよ…?

本当は真凛も…っ。」

ぎゅっ…

泰詩の手に力が込められる。

あの日生まれて初めて

私の心の中にあった泰詩への気持ちが

それが、"恋"だったんだって気がついた。

私にもわかったんだよ。

泰詩の好きがどんな好きなのか。

私もあなたの事がずっとずっと

好きだったってわかったの。

やっとわかったのに…。

今度は嘘をつかないとならない…。

胸が張り裂けそうで苦しくてたまらない。

「…別に…何でもない。」

私はまた嘘をついた。

「…これが、真凛の答えなの?」

泰詩の悲しげな声が

私の胸に刺さって痛くなる。

私は小さくうなずいた。

「わかった……。」

そう言うと…

泰詩はゆっくり私の手を離した。

顔を上げた泰詩の目は本当に切なくて

こんな顔をしたのはあの日以来…。

私が渋谷くんと付き合った事を報告した日。

私を初めて好きって言ってくれた日。

そして、今日で2回目…っ。

2回も私を好きって言ってくれた…。

それなのに…気持ちを踏みにじった。

もうこんな顔をさせたくなかったのに…。

これ以上泰詩の顔を見ていたら

泣いてしまいそうで私は

下を向いてしまった。

その時、泰詩が私の頭を

二回ポンポンと撫でた。

私が泰詩を見上げると泰詩は私を見ながら

いつもみたいに優しく笑っていた。

その泰詩の優しい笑顔が辛かった。

多分これは…

今の泰詩の精一杯の優しい嘘。

大丈夫じゃないのに、大丈夫なふり。

そうやって、ずっと私の為に嘘を

ついてくれた。

昔からずっと泰詩は嘘をつく。

でも…それは優しい嘘だった。

なのに今、私がついた嘘は…最低な嘘。

泰詩を…

こんなに優しい人を傷つけてしまった。

どうしようもなく胸が苦しい…。

でも泰詩はもっともっと苦しいよね。

何て言ったら…

傷つけないですむんだろう。

私…どうすればよかったんだろう。

泰詩は私に背を向け歩き出した。

泰詩の背中を見送りながらも

泰詩がまた振り向いて

くれるんじゃないかって思ってしまう。

本当はね…

私、泰詩が大好き。
< 91 / 212 >

この作品をシェア

pagetop