僕は、君が好きです。
電車に揺られている間

泰詩はいつもよりずっとお喋りで

泰詩のとりとめのない話が

まるで宙に浮いたみたいに

静かな車内に響いていた。

私はそんな泰詩の優しさが辛くて

何を返したらいいのかわからなくて

ただ、黙って隣に座っていた。

だって…泰詩、無理してるってわかった。

それなのに私は本当に最低で…

何も返す事ができなかった。

こんな状況でもまだ泰詩は

私の心配してるんだ。

私は泰詩の優しさに甘えてる。

泰詩の好きに応えられない私は

泰詩の隣にいる資格なんてない。

もう隣にはいられないんだ。

"○△高等学校前~"

プシュー

電車のドアが開く。

私は電車から降りようと立ち上がる。

朝の早い時間のせいか他に降りる学生は

チラホラ数名くらいだ。

私がドアに向かおうとした

その瞬間…

ガシッ

えっ…?

振り返ると泰詩が私の腕を掴んでいた。

泰詩の顔…

まるで怯えた小動物みたい。

この手を離したら…

死んでしまうかもしれない…

そう思わせるような瞳をして

私を見つめていた。

「泰詩…」

プルプルプルプル

ドアが閉まる警告音が鳴り出す。

私はただ、泰詩を見つめていた。

泰詩はおもむろに立ち上がって

そしてその瞬間

私を引っ張って電車を降りた。

えっ…どういう事…?

私がボーッとしていると

「ボーッとしてると乗り過ごすぞ!

じゃあ今日は俺

朝練行くから、先に行くわ…。」

そう言うと

泰詩は私の腕を離して

そのまま何もなかったかの様に

ホームの階段を一人で上って行った。

「泰詩…っ!」

泰詩の後ろ姿が見えなくなるまで私は

ずっとその姿を見送っていた。

ねぇ、泰詩…今のは、何だったの?

本当は何か言いたかったんじゃないの?

何も言わなかった…

それが私には無言のサヨナラの様に感じた。

さよなら…なんだ。

そう思ったら涙が次から次へと溢れてきて

頬を伝っていた…。

今すぐ追いかけて、その手を掴みたい。

けど…足が地面にくっついているように

動かなかった…。

私にはもう泣いたり追いかける資格なんて

ない…。

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