君が笑ってくれるなら
プロローグ
今、何故……俺は此処にいるんだろう。

棺の中に眠る君。
何故、冷たくなった君を見ているんだろう。

穏やかで優しく微笑む君の顔。

薄紅色の頬をした君は、呼び掛ければ、俺の言葉に返事をして、今にも起き上がりそうにしているのに……。

ハードボイルド作家、梅川百冬先生宅からの、君の電話。

「今から帰社します」

連絡を受け、僅か1時間後だった。

本降りの雨、前方不注意で横断歩道に突っ走って来た車。

君の事故の報せを受け、病院に駆けつけた時には、君はもう、虫の息だった。

「那由多賞とって、ずっと作家でいてくださいね」

君はひと言、呟いて息を引き取った。

俺は君に声も掛けられないまま、君の冷たい頬を撫でた。

君と過ごした日々が幾つも思い出される。

頬に涙が伝う。

だけど……君に何て言葉を掛けていいのかわからない。

溢れる涙をどうすることもできずに……。

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