君が笑ってくれるなら

「何にも知らないのね。西村嘉行の『鬼首村の笛が哭く』も、結城くんが担当でなければ『このミステリーがヤバい大賞』を受賞していないと言われているのよ」

「六甲おろしで笛が哭く……作品ですか」

「ええ、そうよ。結城くんは他社のベテラン担当が舌をまくほど優秀なの。結城くんを担当にしたいという作家は多いのよ」

和泉は田中の話を聞きながら、疑問を覚える。

結城は出版社の社員で編集部員だが、万萬詩悠という作家でもある。

しかもベストセラー作家、沢山江梨子と同時連載して、実力も人気も遜色ないほどの新進作家だ。

「あの、結城さんは作家としての実力も評価されていて、作家の先生方には煙たい存在ではないんですか」

恐る恐る訊ねる。

「そうね～。でも他社の担当者が何人も、作家の先生から『結城くんが担当になればモチベーションが上がるだろうに』と言われているみたい」