君が笑ってくれるなら
手話に不慣れな和泉には、彼らの会話が断片的にしか理解できない。

──和泉。メンバーの楽譜は新進ヴァイオリニストで、ピアニスト周桜宗月Jr.の周桜詩月が書いているんだ

結城がメモ用紙に素早くペンを走らせ、和泉に見せた。

「あのフローラ化粧品CMのヴァイオリニストですか?」

「そうそう。詩月さん、昨年からウィーンに留学しているんだよ」

『実は……その周桜詩月のヴァイオリンCDを入手したから、チケットのお礼に持ってきた』

「ウソっ、どこに行っても完売で手に入れられなくて、詩月さんに催促しようと思っていたのに」

『聖諒学園の学長に接触したら、簡単にGETできた。周桜詩月は大学の広告塔だからな』

結城は和泉のため、こまめにメモを書き会話の内容を伝える。

「彼女?」

メンバーの問いに、和泉の胸がトクンと跳ねた。

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