君が笑ってくれるなら
──食べたいものはあるか? とくにないなら適当に注文するが

メニューにひと言添え書きはしてあるが、和泉にはどんな料理なのか想像できない。

「はい、お願いします。好き嫌いもアレルギーもないので」

『了解』

結城は呼び鈴を押し、穏やかに笑った。

「此処へはよく来るんですか」

──たまにな。親父のグループ会社が経営している店だから、便宜は利く。接待には相手方も満足してもらえる店だし

「あの……結城さんのお父さんって、その……」

──ああ、結城コンツェルンの会長だ。機械産業、飲食業、服飾、金融業、軍需……手広くやっている

「ゆ、結城コンツェルン!? 大財閥じゃないですか! 結城さんってそんなスゴいところの!?」

──創業は幕末、先々代が今の形にしたんだ。親の仕事なんて肩書きとして自慢にならないだろ。祖父もまだ顧問で健在だし、俺が跡を継ぐわけでもないし

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