君が笑ってくれるなら
微かに笑った顔に、胸がキュンとした。

プルーンのスティックを開け、袋を指で押すと中から出てきた赤紫のゼリーが色鮮やかだった。

そっと口をつけてかじると甘酸っぱい味が、口いっぱいに広がった。

「……あっ、美味しい」

『だろっ!? いくら身体に良いからと言っても、美味しくなきゃ続かないからな』

ゆっくりした手の動きがとても綺麗だった。

「あの、結城さんは作家としての目標……あるんですか?」

唐突に訊いてみる。

『もちろんある。「那由多賞」受賞だ。いつか受賞して……』

その先を結城さんは手話にしなかった。

黙って空を見上げた。

結城さんの視線の先に、今にも消えそうな薄い虹が見えた。

『俺は色んな人に恩返しがしたい。那由多賞はその内の1つだ』

凛とした横顔に見惚れながら思った。

この人が好きだ、この人のことが大好きだと声に出そうだった。

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