君が笑ってくれるなら
後輩、麻生紗世が俺に託した最期の言葉だった。

俺は彼女の言葉に頷くことも、答えてやることもできなかった。

声を出し泣き叫ぶことも、彼女の名を呼ぶこともできずに、ただ、眼を閉じ息絶えた彼女を抱きしめていた。

「由樹、大丈夫か?」

相田さんが俺の顔をマジマジ見つめて言う。

『こんなに早く、麻生との約束を果たせるチャンスが来るとは思っていなかったので、面食らっていますが……大丈夫です』

「由樹、覚悟はしておけよ。で、新作はどうだ? 構想は出来上がっているのか」

編集長は「那由多賞」受賞をかなり期待しているようだ。

『ええ、まあ。沢山先生とのコラボ調整、俺はいつでもOKですけど』

「相変わらずだな。いったい何処に執筆する時間があるんだ?」


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