君が笑ってくれるなら
『詩乃は買い被りすぎだ。会社経営はそんなに甘くない。大学で経営を学んだ程度で、兄さんたちを差し置いて俺が……』

詩乃の強張った顔が事の重大さを物語っていた。

今まで自由に好き勝手できたことは、父の温情だったことを思い知らされるにじゅうぶんだった。

お前は虚弱体質だからと口では言いながら、父は俺に経営は学んでおけと命じた。

難癖のある大御所作家たちの担当をしてきた数年間は、一筋縄ではいかない重役を相手と匹敵するほどの経験なのではないか。

取得した数々の資格やパソコンの高速打ちも、全てが父の補佐に役立つに違いない。

父は病室で俺に何を告げるのか。

俺は回らない頭で懸命に、今更の如く考えていた。

病室に着くと、心臓モニターで監視され点滴をしている父が、俺の姿を見るなりフウ~と深く息を吐いた。
< 169 / 206 >

この作品をシェア

pagetop