君が笑ってくれるなら
俺はニコリ笑って、鞄を担ぐ。

肩に掛けた仕事用の鞄と、右手に握った紺色のキャリーバック。

キャリーバックの中身は酸素ボンベと酸素吸入器だ。

編集部を出る時には、鼻に当てた管を外す。
俺が酸素吸入していることも、酸素吸入器を持ち歩いていることも、社内では編集部しか知らない。

先日、総務部の女子社員にはタイミング悪く見られてしまい、隠すに隠せなかったが……。

車に乗り込み、直ぐさま酸素吸入をする。

俺の心臓は生まれつき壊れている。

左心低形成症候群(HLHS)。
心臓の左心室と左心房が殆ど無い状態で生まれ、何度も手術している。

俺の場合はとくに重症で、未だに根治手術が終わっていない。

運動制限や塩分糖分制限が、かなり厳しい。


「空と君との間には」連載が始まって間もなく病状が悪化し以来、24時間常時酸素吸入をするよう主治医から命じられている状態だ。


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