君が笑ってくれるなら
そのたびに、沢山江梨子が俺を呼び出す。


「結城くんを呼んでちょうだい。結城くんがいてくれたら書ける気がするの。結城くんが来てくれなきゃ書かない」

などと、わめき散らし、やむなく相田さん救援のため、出向かされる。

――ったく、迷惑極まりない

オートロックの暗証番号を入力すると、不気味な猫なで声で、沢山江梨子がこたえる。


「結城く~ん、いらっしゃ~い。待ってたわよ~」

俺は毎回、背筋に寒気を感じ、嘔吐と目眩をもよおしそうになる。

噎せかえるような香水の匂いを充満させた、沢山江梨子のマンション。

玄関を開けた瞬間から、強烈な香水の匂いで、目眩がする。


――帰りたい、今すぐ


着いたばかりで、いつも思う。


――あっ……

玄関で出迎えたメイドが心配気に、咳き込む俺を見上げる。


いつもと香りが違うことに気づく。

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