君が笑ってくれるなら
沢山江梨子の執筆部屋に通される前、相田さんから今回は何を行き詰まっているのか、簡潔に聞く。
相田さんの要約によれば、主人公を心臓病と設定したものの、詳しくイメージが膨らまないという。
――くだらない
一言、メモ帳に書く。
花粉症対策用のマスクを着け、鞄から取り出したスプレー式の酸素ボンベをマスクの隙間から入れて、酸素吸入しながら、迷惑な女だと呆れる。
執筆部屋に入ると香水の匂いは、更にキツくなる。
この部屋が香水の匂いの源で、俺は部屋に入る前、マスクを外し、スプレー式の酸素ボンベを仕舞ったことを後悔する。
――お元気そうで安心しました。お加減がよろしくなくて、筆が進まないと伺ってきましたので……少し、お痩せになられましたね
嘘も方便だ。
沢山江梨子は、痩せたという言葉に、満更でもないような顔をする。
――香水が?