君が笑ってくれるなら
5章/声を忘れたカナリヤ
俺はまだ仕事をしている編集長と黒田さん他数人に、お茶を淹れて、満員のエレベーターを避けるために時間調整する。


「由樹、お前の淹れたお茶は美味いんだよな」

毎回言われるが、特別なことはしていない。

給湯器のボタンを押し、自動的に出てくるお茶より人の手で丁寧に淹れるお茶が美味いのは、当たり前だと思う。

駐車場に着くと、俺の車の傍らに制服姿の女が立っている。


「結城さん」

俺に気付いた女は俯いていた顔を上げる。
総務部の女……和泉だ。


……何か?

人差し指を立てて、左右に振り、口に出しながら手話で訊ねる。

和泉は首を傾げて困ったような顔をする。

俺はメモ帳とボールペンを取り出す。

彼女はサッと紙袋を差し出した。


「ありがとうございました、助かりました」


――クリーニングに……そのまま返してもらってよかったのに


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