君が笑ってくれるなら
メモにボールペンを走らせ、彼女に向ける。


「あの、これ。お口に合うかどうか」


和泉は小さな紙袋を差し出す。


――気を遣わせたな


「いえ……」


――あれから、どうだ? 今日も残業か


「はい……戻って書類仕上げなきゃ」


――アフター6、たまには楽しんでいるのか? 話くらいなら聞いてやる



「あの……結城さんって、残業しないって本当なんですか?」


「はあ?」

たぶん、俺は声が出るなら、そう呟いていた。


――残業、した覚えはないな。必要ないし。だいたい部下に残業させるなんて、無能だろ


「えっ!?」


――もどらなくていいのか?

唖然としている和泉。
どうも、この女はトロ臭いなと思う。

見た目と違う。

車に乗り込み、酸素をセットし、エンジンをかけ発進させる。

和泉はまだ、立ち尽くしている。


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