君が笑ってくれるなら
「酷い……」


――西村先生にはゴースト騒ぎの時、特にお世話になった。
俺が喋れなくなっても、ベストセラー作家の担当を掛け持ちさせてもらえてるのは、西村先生が贔屓にしてくださるからだしな


「あ……わたし、結城さんってもっと俺様で自信過剰で、自己中で恐い人だと思ってました」


――ずいぶんだな


「すみません」


――面と向かって言われたのは2度目だな……言った奴はもういないが


「麻生紗世さんですか」


――ああ……自己満足で書いた小説で作家デビューして以来、自暴自棄だった。
彼女に出会って……灰色だった世界が少しずつ色づき始めた。
俺が那由多賞をとり作家で居続けること……それが彼女の最期の言葉だった


「……」


――出先から戻る途中、事故でな……呆気なかった


和泉は目にいっぱい涙を溜めている。
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