境界線
その日の残業。
いいのか悪いのか、残ったのは私と春樹。
ドキドキしてるのは私だけ。
だって春樹は覚えていないから。
そー思ってた。
ちゃっちゃと仕事を終わらせて、この息のつまりそうな会社から逃げるように立ち去ろうとした。
でも、それをさせてくれなかったのは春樹本人だった。
「置いていくの?
また昨日みたいに。」
「へ?」
「無かったことにされると俺、泣くよ?」
覚えていてくれたのに、素直に喜べなかった自分におどろいた。
朝、婚約発表をあんなに嬉しそうにしていたくせに
同じ日に違う女性を口説くなんて。
「最低。」