空に浮かぶ虹、アスファルトに浮かぶ虹
「ん?お前、いくらだと思っているんだ?」
「えっ。百万じゃないんですか?」
男と店長は、また大笑いをした。
「馬鹿か、お前。お前の懐事情は、俺が一番知ってるって言うの。そのお前に、百万の車、紹介するかぁ。」
店長は、涙まで浮かべて大笑いしている。
「じゃ、いくらなんですか?」
期待で、少し高い声になった。
「十万だよ。じゅ、う、ま、ん。聞こえたかぁ?」
信じられなかった。こんな極上の車がそんな訳がない。そう頭で何度も疑ってみても、聞こえてきた言葉は十万としか聞こえなかった。今まで、色んな中古車雑誌やネットを、眼を皿のようにして見てきても、そんなタマは見た事がない。別の意味で、目の前の車は幻のように思えてきた。
「本当に、十万すか?」
「しつけえなぁ。ま、その金額にするには条件があるんだけどな。」
「条件?」
次々に襲ってくる展開に、頭の中がとっちらかってきた。もう難しい事は考えず、そのまま話を素直に聞こう。宙はそんな気分になっていた。
「お前さ、うちの弟をかわいがってくれてるんだって?」
「弟すか?」
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