空に浮かぶ虹、アスファルトに浮かぶ虹
いったい、誰の事か見当も付かなかった。
「晴だよ。晴。晴は、こいつの弟なんだよ。」
「えぇ。マジすか。」
「それにしては似てない。そう思っているんだろ?ま、弟って言っても、義理の弟だからな。」
そこで、男はたばこに火をつけた。
「でな、あいつが最近、中免を取ったわけよ。なんか、すげぇ先輩がいて、その先輩がすげぇ格好いいバイク乗ってる。俺も、あんなバイク乗りたいってな。」
晴がそんな事を、それも自分の知らない男に話しているなんて想像も出来なかった。不思議なつながりを感じながら、宙はそのまま話を聞いた。
「あいつが、そんな話するなんて珍しいんだよ。お前も知っていると思うけど、あいつ、トン臭いだろ。で、結構いじめとかにあったりしてな。それが、お前に会ってから変わったんだわ。」
―――それで、あいつ、最近、ピアスとか付けてたのか。
まだ、幼さの残る晴の顔には、子供が親の真似をして化粧するかのように、とても滑稽に見えていた。その意味を、宙は理解した。そして、それがとてもくすぐったく感じた。
「それで、条件ってやつだけどな。お前のバイク、あいつに下ろしてやってくれねえか。もちろん、タダとは言わねえ。そのバイクの金額を値引きして、十万。こんな訳なんだが、この条件、飲んじゃくれねえか?」
宙のバイクは、確かに雰囲気がある。メンテナンスもしっかりしていて、綺麗に乗っている。とは言っても、とても古く、それも不人気車だった。だから、買い取り店に下取りに出したとしても、二束三文もいい所だ。それを、こんな好条件を提示されたら、宙でなくても二つ返事だろう。
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