ブルーウィンズ~ラブソング嫌いなボーカリスト~
「は?さっきデタラメにだけど俺たちの歌弾いてただろ」
「結愛先輩?」
「どうしたんですか?」
「先輩、なんからしくないですよ」
4人は少し動揺しながらもあたしに聞いてくる。
自分でだってわかってる。
さっき2曲も弾いて、それで弾けないなんておかしいことくらい。
でももう自分自身が冷静でいられない。
手もすっごく震えている。
ピアノは嫌いではない。だからさっきは無意識に弾くことができた。
でも嫌いなのは……ピアノを無我夢中でやっていたあの頃が嫌いなんだ。
「……ごめんね。すごく気持ちは嬉しかったし、やりたいんだけど」
自分の心がどうしてもついてきてくれない。
あたしは掻き消したい、忘れたいと思い続けてきたあの過去を自分の手で再びそのドアを開けてしまったんだ。