油断は大得?!
仲居さんだ。
「あの、お伺いしても宜しいですか?」
「はい、何でございましょうか?」
「別館の浴場の事を詳しく知りたいのですが」
「はい。まず、お時間は何時にご利用になられても大丈夫でございます。
本日、女湯は夕凪、男湯は朝霧となっております。こちらの館内の案内図を参考に見ていただけると解りやすいかと存じます。
特徴と致しましては、夕凪は日没のお時間がお勧め、朝霧は日の出のお時間がお勧めといったところでしょうか。
手前味噌ですが、一見の価値はあると思います。
…どうぞ、お茶を」
上品なお茶菓子と供に濃い緑のお茶を勧められた。
なんとまろやかなお茶だろう。
仄かな甘味さえ感じる。ホッとする味と温度だった。
「あの、先ほど案内してくれた方は…」
「まあ、ご挨拶を忘れましたか?失礼致しました。
支配人の一之瀬でございます。支配人と言いましても、修業の身、まだ不慣れなもので、申し訳ございませんでした」
「いいえ。あの、貴女はもしや…」
「まあ、これは重ね重ね失礼致しました。
私は元女将、一之瀬の母でございます。
現在はこの通りの仲居でございます。大変失礼を致しました」
「いえ、何も失礼な事などございません。
私が興味本位に聞いただけです。こちらこそ不躾なことを言って、どうか気になさらないでください」
「有難うございます。
それでは後ほど19時に、お食事をお持ちさせて頂きます」
軽く微笑んで頭を下げ、静かに下がって行った。