油断は大得?!
「迷われましたね、また」
あ、まただ。どうして、こうもタイミング良く現れるの?
「あの、どうして…私、教えてもらった通りに…」
「だ、か、ら。フラフラ歩いてんじゃないぞ、って言ったのに…」
「えっ」
「ま、今回は迷うように、俺がわざと教えたんだけどね?
にしても、こんな簡単な通路、そんな物見なくたって間違いようが無いんだけど…。
余程の方向音痴か?あんた」
呆気に取られてアワアワした。俺とか、あんたとか…あの人とは別人?
「…別人じゃねえよ。これが素の俺だ。
まあ、さっきは、支配人ぶって話してたけど。
名前、言い忘れてたから、お袋に叱られちまったし」
顔に出てたのかしら。
きっとあんぐりと口が開いていたのだろう。
笑われた。
「いつまでポカンとしてる。……また会ったな」
そんな言葉を何処か上の空で聞いていた。
「まあ、今回は、私、支配人が悪かった事ですから、お部屋までお送りします」
言ったような言わなかったような…いや、言ったと思う。…聞き取れていなかった。
部屋の前まで連れて来られたタイミングで、丁度直己が出て来た。
「おぉ美波…。遅いから逆上せてるんじゃないかと心配したんだぞ?
今、声掛けに行こうとしてたところだっんだ」
「大丈夫。ちょっと迷って…、丁度通り掛かった支配人に助けてもらったの」
「それは御足労おかけしました。こいつ、ちょっと方向音痴なとこがあって」
「いいえ、偶然通り掛かりましたもので。
それでは…」
「有難うございました」
「…」
「さ、入ろう。ご飯、準備出来てるよ」
「あ、うん…」