油断は大得?!

どうして、こんな、…突然現れて…。

あ……桔梗の部屋だからかな。
庭には濃いブルーの桔梗が沢山咲いていた。
飛び石伝いに柔らかい明かりが灯っていた。
とても風情がある…。

あ…。手を取られた。

「……あの日…。あんたとぶつかった日は、旅館組合の会合があったんだ、近くのホテルで。
昼間の会議から続いて、夜も何かしらあるっていうから、面倒臭くて帰ろうとしてたんだ。
まあ、結局、呼び戻されたけどね」

「…」

「…忘れなかった。いや、忘れられなかったの方が正しいな。
名前も知らない、どこの誰かも解らない。
二度と会う事なんてまずない。そう思ってた。
…今日までは」

見上げていた空から顔を戻し、見下ろすように見つめられた。

「…」

「…なのに。あんたの方から現れた…」

「…奇遇というモノかもしれませんね。
有ることだから、会ったのでしょう。それだけのことだと思います」

ここに来て会った時、間違いでもいい、なぜ普通に声をかけて挨拶をしなかったのか。何となく悔やんだ。

「あんたはあの時、俺に何も感じ無かったのか?
俺は…感じた。何だか解らないけど…、感じたんだ」

それは…ラッキーな出会い、くらいに思っただけ。

「…私、そろそろ直己が起きるので…ごめんなさい」

これ以上は…、戻ろうとした時だ。

「キャ」

不覚にも声を上げてしまった。
いきなり抱きしめられたからだ。

「朝、また来る…」

そう耳元で囁かれた。え?
え、私…、ドキドキしている?…驚いたからよ、これは。
立ち去ろうとしていたから潜むような声を掛けた。

「待って…」

上着を脱ぎ慌てて返した。

「これ、有難うございました…でもさっき言ったことは困ります」

「朝、来る」

片手で受け取りながら引き寄せられた。
顔を近づけられて、またそう言い、庭を通って帰って行った。
そんな一方的なこと……。浴衣にうっすら香水の香りが移っていた。

はぁ、…何が何だか…。翻弄されて…こんなの止めて…、いきなりドキドキするような、一方的なことは駄目…。
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