油断は大得?!

そんな訳で、珈琲のチェーン店に来ていた。
…なんで、こうなるの……部屋に入れる訳にはいかない。その上、帰ってくれそうもなかったからよ…。


「俺は一之瀬 誉(ほまれ)と言う」

丁寧に名刺を出されると、うっかりこちらも出してしまいそうになる。危ない、職業病だ。
一応受け取った。

「あの…」

何を言われても、そんなつもりはない。私には直己がいる。

「裏の番号がプライベートだ」

「…」

グイグイ来るわね。詳しく説明されたって架けたりしないけど。

「それでご用件は」

「デートの取り付けに来た」

「…あの、ご存知かと思いますが、私には」

「知ってる。椎名さんという恋人が居る」

「はい。それなら…」

「婚約してる訳じゃないだろ?」

「まあ…それはまだ…」

してるって言った方が良かったかも。

「勿論、結婚だってしていない。だから問題無い」

「はあ?…あの、この際だからハッキリ言っておきますけど、貴方とは、何も起きませんから」

確かにドキッとはした。でもそれは通りすがりの人に対するその場限りのもの。

「そんな事が何故今の段階で言い切れる?」

いきなり後頭部に手を回され、衝突しそうな勢いで引き寄せると、触れるか触れないかの距離で止められた。……唇が…近い。

「このまま…、唇、奪うこともできるけど?事は起こそうとすれば、いつでも起こせる」

言い終わると同時に解放された。

……はぁ、いきなり…なんて事するのよ…。
何もかも…驚かされることばっかり。

「起こしちゃいけないと言う、自制の念からだろ?だったら、もう意識の中に俺は居ると言う事だ。
第一、あの時一瞬でも、君の気持ちは動いたはずだ。どんな意味であっても。
俺にはそう見えたけど?」
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