油断は大得?!
今夜の高級クラブでの事だ。
滅多にこんな場所には来ない。どうしても外せない接待があって来ていた。
俺は、こういった店の席に付いている女性の香水の香りが苦手だ。とても高級なモノを使っているのだろうけど、“不必要”な香りは何の誘惑にもならない。
ピッタリと素の肌を付けられるのも苦手だ。
というより、過剰な擦り寄りとか、止めて欲しい。
仕事だ。大事なお得意様相手だから不快な顔もしていられない。仕方ない。
そんなところへ胸の携帯が着信を知らせた。
ブルブルしているのに気付いたらしく、腕を放し、お客様、お電話のようですね。メールかしら?と言うから、俺はチャンスとばかりにその着信を利用した。
普段は絶対席を立ったりしない。
接待先の常務に断りを入れ、離れたところへ移動した。
登録の無い番号だった…誰だ?
仕事が絡んでいるといけないから出る事にした。
「はい、お待たせしました、椎名です」
「もしもし、不躾に許可無く番号を拝借いたしました。一之瀬です」
連絡して来たか。と思った。一之瀬と聞いて直ぐピンときた。
「先日は大変良くして頂きました、有難うごさいました。何でしょう?よく確認して出たつもりでしたが、何か、忘れ物でも有りましたでしょうか?」
「忘れ物ですか…なるほど、そう問われると、忘れ物があったと言い回しをしたくなります」
「では、どういった忘れ物でしょうか?」
「椎名様の、ではございません。
私の忘れ物でございます。
確認が遅れました。今、お電話は大丈夫でしょうか?
ザワザワしているようですが」
「問題ありません」
「…では、勿体付けるつもりもございません。
話は至極単純明解。
貴方の大事な、英 美波様を頂きたく、宣戦布告させて頂きます」
「内容については、はいそうですか、とは言えません。
ただ、宣戦布告すると言うのであれば、それから逃げる理由はありません。どうぞ。受けて立ちます。言っておきますが…美波は難攻不落ですよ」
「いえ、どんなモノにも隙はあります。必ず。
お時間頂き有難うごさいました。
では、今日お伝えしたかった事は済みましたので、失礼いたします」
…切れた。
くそっ、何で…、美波なんだ。