油断は大得?!
誘惑
「英」
「はい」
「金曜の夜、つき合ってくれないか?」
「え゙っ?」
一斉に社員の目がこっちに向くのが解った。
「か、課長?」
「あ…いやいや。僕とした事が。英を前にすると…。んんっ、説明しないとな。言葉が足りなかった。
〇〇ホテルで親会社主催のパーティーがあるんだ、あ、金曜にな」
「はい?」
「実はそのパーティー、パートナー同伴になってるんだが…」
課長はポリポリと人差し指で頬を掻いている。
「僕は独身で…その…彼女も居ない…」
「は、あ」
はい、と断言した返事は流石に失礼だから避けた。
「今回のパーティーは、部長に推薦されている手前、行かない訳にいかなくてだな…。
それでなんだが、パートナーを英にお願い出来ないかと、そういう事なんだが、無理かな?…無理だよな…」
「課長?」
「ん?」
「そんなにご自分の事をぶっちゃけ無くても。
私でお役に立てるなら、お供させてください」
「いいのか?英。問題無いのか?」
「仕事です。大丈夫です。問題はありません」
「はぁ、有り難う。では宜しく頼む。
今回の事は僕のもなんだが、衣装は部長が負担してくれる。だから英は、当日までに一度ここを訪ねて、その…サイズの確認をしてもらってくれ」
多分、高級ブティックであろうお店の名刺を渡された。
「解りました。今日にでも早々に行っておきます」
「ん、宜しくな」
私達の話がプライベートな事では無いと判明した途端、聞き耳を立てていたであろう社員はカサカサと仕事を再開したようだった。
そもそも、こんなところで…大胆なプライベートな誘い、話す訳無いし…。