油断は大得?!
会心
控え室の明かりを点けた。
「少し話をしよう」
俺は美波に上着を掛けた。
「一之瀬さん、人の気持ちはある意味自由だ。
誰かが誰かを思う気持ちは自由だし、それは止められない。今日の事、もし、美波にも貴方に対する気持ちが少しでもあるなら、何か起きていても仕方ないと思った」
「直己、私は…」
「待って。ちょっと、待っててくれるか。
ここに来る車中、運転しながらそんな事も過ぎりました。
でも、この様子だと、そうではなさそうだ。
美波は貴方に腕を回していなかったしね。
そこでなんだけど、好きでいる事は勝手だ。
なんならずっと美波の事を好きでいてくれてもいい」
「…椎名さん、貴方、何を言ってるんですか?」
「ん?可笑しい事は言ってないつもりだけど?」
「いやいや、可笑しいですって。
ずっと好きでいろなんて。可笑しいでしょ。貴方が俺に言う事じゃ無い」
「一之瀬さん。人の思いなんて、直ぐに断ち切れるものじゃないでしょ?好きになるな、なんて言ってどうなります?気持ちって簡単に直ぐ消せるものですか?
特に俺達男は…女々しいから」
「…まあ、それは否定しませんけど」
「特に今、火が着いたばかりの情熱的な気持ちは、止めるどころか、抑えようとしたら余計暴れる。駄目だと思うと尚更苦しくて、ね。
俺は、いや、俺達は結婚する」
「えっ、直己…」
「いいよな?美波」
後でちゃんとプロポーズするから、今は許せよ。
美波は驚いている。そうだよな、何の相談もせず、こんな形で言われるのも…。
驚いてはいても、美波はコクン、コクン、頷いている。はぁ、良かった。
「だから、気の済むまで…、諦めがつくまで、好きでいてくれていいよ?」
こうなると、逆に冷めるのは早いと思う。
「はぁ?…そんなぁ。…殺生なこと」
「いやぁ、一之瀬さんに、まだ婚約も結婚もしてないだろうと言われて、ハッとしましたよ。
いつかはする。その気持ちに加速がついただけの事です」