心の中を開く鍵
プロローグ
*****



昔つきあった彼は、友達をとても大切にする人だった。

大学の先輩で、一足先に社会人になっていたから、会社のつきあいも増えていたし、会える時間はみるみる減った。

まぁ、友達や同僚とのつきあいを蔑ろにする人よりはいいのかもしれない。

それはそう思うけれど……。

デートの待ち合わせには来ない。
よくてもドタキャンされる。
デート中でも楽しくスマホで友達とおしゃべりしている。
約束のほとんどはないもの扱い。

そんな彼の常套句は『つきあい悪いやつって思われたくないし、別に浮気じゃないんだから』だった。

デートの約束を『飲み会に誘われた』の一言で断って、合コンに行っているのは知っていた。

大学の同じ講義を受けていた女の子に『高崎さんて、あんたの彼氏でしょ。合コンで隣に座ってさー。ウケたよー。面白い人だよね?』などと、どこか優越感に浸られながら言われることもたまにあった。

そういう時は微笑んで『そうでしょう? 私の“彼氏”人が良いんだよね』と、こちらも優越感をにじませてやり返すしかなかった。

二人とも実家から離れて暮らして、独り暮らしで……。

彼が『うちで待っていて』と言うから、誰もいない彼の部屋でポツンと過ごすこともあった。

そんな事をされながら、就活の時期になって。お互いになおさら忙しくなって……。

最初の頃は、たぶん楽しかった。
普通の恋人同士らしく、いちゃいちゃもしていたと思う。

だけど、そんな事を繰り返されているうちに、そんな楽しかった思い出も忘れそうになっていた。

そして、私も就職先が決まり、安定した頃。
< 1 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop