心の中を開く鍵
「理由は……伺える内容でしょうか?」

伺っては欲しくないけれど、理由も言わずにお願いもないよねー。

「まさに私的なことなのですが、個人的に高崎課長に、お会いしたくないと言いますか……」

職務に個人的事情を持ってくるのはどうかと思うけれど、今の流れなら言えそうだったよね?

「そうですか……」

主任は少し考えて、ペンを取り書類に斜線を引いていく。

「羽賀部長を説得できるか解り兼ねますが、やってみましょう」

「……説得する感じなんですか?」

「そもそも、あなたを貸せと言われましたので他を調節していたところでした。うちの補佐を連れていくんですから、それなりの理由を求めましたら……今回のプロジェクトは相談役顧問も絡んでいるようで」

うーわー……。相談役顧問なら、うちの会社の創始者の一人じゃない。

「大きなプロジェクトなんですか」

「開発事業だとは聞いていますが、詳細は伺っていません。ただ、久住常務と相談役顧問、それから今回、羽賀部長も絡みますので、間違いなく企画室も巻き込まれるでしょうね」

さらっと言われて、頭を抱えた。

でも、それなら相談役顧問の個人秘書たちも巻き込まれるんだろうなぁ。

「ダメでしたらすみません」

「いえ。無理は申しません。関わるメンバーを聞いただけで、人選が大変そうなのは解ります」

「努力はしますが……」

主任が呟いたけれど、難しいだろうな……とは思う。

重役専任の秘書たちとは別に、秘書課の人員は現在10名。

一番古株の結城さんは海外開発事業のチームに取られているし、主任を抜かすと先輩もほんの数名で、ほとんど要所に配属されている。残るは私の同期か後輩たち。

同期うちなら、メンツ的には主任補佐の私が適任になるし……。

皆が出社して朝礼を終わらせてから、主任は難しい表情のまま羽賀部長のところまで向かい……30分程してから帰ってきた。
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