心の中を開く鍵
「確かに、高崎さんて面白い人ですね」

「なんだ、いきなり」

駅につくと改札を抜けて、連絡通路を歩く。そして昔の事を考えていた。

当時の私は思わなかったけど、皆は翔梧を“面白い人”だと言っていた。

私はその場面を見ていたわけじゃないけれど、面白おかしく、ちゃんと伝えてくれる人もなかにはいたから……。

「いえ。おかしな人だと思って」

「具体的にはどんな風にだよ」

「もう三年も経つのに、久しぶりに会ったからって、私を口説くとか言っているところが」

今度は翔梧が黙り込むと、口元を押さえて視線を逸らされた。

「……いや。それは……」

「普通、三年も経てば他につきあっている人がいてもおかしくないです。高崎さんはもう28……今年で29歳ですよね? 年齢的なものと、役職的なものを加味すると、ご結婚されていてもおかしくないですし」

真面目な顔でホームに立つと、どこか呆れたような視線で見返される。

「お前……マーケティング向きな性格しているな」

向きかどうかは知らないけれど、秘書も私に向いているとは思っている。

「だが、お前もその条件は同じだろう。同じのくせに……」

言いかけて、翔梧は眉を潜めた。

「昨日の話からつきあっている男はいないと判断したが。もしかして、男がいるのか?」

そう言えば、観月さんと言い争っていたところを見られていたんだったね。

普通、つきあっている男性がいるのなら“恋人を探す”だとか“お見合いかキャリアを目指す”なんて話にはなりにくいと思うんだけれど。

ああ……でも、あなたは“彼女がいたとしても”合コンに参加する人だものねー?

「恋愛に興味がもてないだけです」

囁くようにして呟いた声は、ホームの雑踏のなかでも聞こえたらしい。

一瞬だけ厳しい顔をして、それから静かに溜め息を吐かれる。

「帰るか……」

「そうしましょう」

そもそも、蒸し返したところで楽しくないんだから。

ホームに入ってきた電車に乗って、人混みに巻き込まれそうになった。

ぐいっと手を引かれてドアを背にすると、巻き込まれないように翔梧が庇ってくれる。

「混んでるなー」

「そうですね。ありがとうございます……」

向かい合っているのは、どうしたものだろうか。
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