心の中を開く鍵
出会いは初めての大学祭の夜だった。

夜店も出して賑やかなキャンパス内で、とりあえず実行委員会の一人になってしまった私は、人混みの中でも自転車で走る人たちの交通整理をしていた。

そこで捕まえたのが翔梧だった。

最初はムッとしていたのよ、だけど話をしているうちに笑い始めていて、その時の感想が“あんた真面目だな”の一言で。

ちょっと失礼な人だと思ったのよ。それは今も大して変わらないけれど。

デリカシーの無さは証明されているよね。

それから、学食で見かけると話しかけて来るようになって、いつの間にか隣にいることが普通になって。二人で出掛けることも普通になって……。

海にも行ったし、サークル仲間だという人たちとキャンプにも行った。

当時は飲むのは苦手だったから、飲み会には参加することはなかったけれど、自然と翔梧の家に出入りするようになっていて、キスをして、抱き合って……。

ああ。忘れたとか言いながら、全然忘れてなんかないじゃない。

もう、自分に嘘をつくのはやめようと思っていたのに。

給湯室で茶器を洗って、フキンで拭き取ると棚に戻す。
そんな作業をしながらも、全く違う事を考えている。

器用になったものだ。

何となく笑って、それから溜め息をついた。

そうね。変わったと言えば私も昔と比べて変わった。けれど、根本的には何も変わっていない。

当たり障りのない友達は多いけど、心から信頼できる友達はかなり少ない。

昔から実は内向的で、自分からグイグイ行くようなタイプではないし、補佐的な事をコツコツこなすのは得意だけれど表だって何かするのは苦手。

……どこがいいのか、こんな女。

だけど、冗談やからかいなら、ハッキリ言ってお断りだわ。

また深みにハマるのはもうたくさん。

好きになって、寂しい思いなんてしたくない。

給湯室を出て行くと、ゆっくりと顧問と話をしながらエレベーターホールに向かう翔梧の後ろ姿が見えた。

その後ろ姿を見ながら苦笑する。

最後はあなたの後ろ姿しか覚えていない。

向き合った事もないくせに。

そう思いながら見送った。









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