心の中を開く鍵
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高野商材の人とのミーティングは数日ぶり。今回は高野商材の人は一人。
顧問は毎回ご出席されるとして、今回、常務は欠席でお茶は3つでいい。

今日来る高野商材の人は翔梧だけ。

唐沢さんにそう聞いて、少しだけ嫌な顔をしたら笑われた。

「肉食男子苦手なの? 山根さんは肉食風に見えて草食ぽいから、その方がうまくいかない?」

唐沢さんも、間違いなく人をからかうのが好きだよね。

だから無表情を装って、首を振る。

「そういう事はたくさんですよ」

改めて思うとすれば“友達”の翔梧なら、大丈夫だと思う。彼は“友達”を優先する人だし、それなら“一緒にいたい”なんて、余計な欲求も出ないだろう。

でも、今さら友達もないと思うんだな。

円満につきあい初めて、円満に別れて、円満に友達できる人もいるかもしれないけど。

だいたい、円満に別れるって、どんな風な事を言うんだろうか。

とりあえず、今日は刷り終わった印刷物の確認もあって、冊子も運び入れないといけないし……。

段ボールを持ち上げたら、唐沢さんに目を丸くされた。

「台車使いなさい。重いわよ」

「大丈夫ですよ。一箱だけですし」

「そういうところ、雄々しいわよねー。山根さんは」

雄々しいって、ひどいなー。

苦笑を返して、重役会議室まで向かう。

押しが強いようで、実は翔梧は押しが強くない。話があると言うわりに、その話をはぐらかすし。

そんなことを考えてエレベーターホールまで来た時、エレベーターが開いて中から当の翔梧が出てきたから、ビックリして段ボールを落としかけ、慌てて支えられた。

「何をやってるんだお前は」

声と一緒に、持っていた段ボールを取り上げられる。

「これ、うちから送った印刷物だろ。バカかお前は」

「ば、ばかって。運んでいただけですから!」

言い返すと、ジロッと冷たく睨まれた。

「なんでお前が手で運んでるんだよって聞いてんだよ。こんな重いもん、持つのは男の仕事だろうが」

「同じ階の会議室に運ぶくらいで男の人は呼ばないわよ」

返してよ。私の仕事よ。

両手を広げて引き取ろうと近づいたら、段ボールをひょいっと肩に担ぎあげられて目標を失った。
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