心の中を開く鍵
「え……」

絶句した翔梧の顔が、みるみる赤くなっていくのは見ものだった。
翔梧が赤くなるなんて、見たことない。

だけど、主任は意に介さずに淡々と続ける。

「うちも嫁と一緒になるまでは、どれだけ苦労したことか、ご同情申し上げます」

葛西主任は深々と一礼して、顧問の後を追っていった。

最後に取り残されたのは私たち二人。

「……ひとつ聞いていいか、真由」

主任たちが去っていった方向を眺めて、翔梧がポツリと呟く。

「……なんでしょうか」

あまり聞いて欲しくない気がするんだけれど。

「お前の会社、どうなってんの?」

私もちょっと思わないでもない。

けれど、伝えておいていた方がいいのかなぁ。眉を下げて翔梧を見上げる。

「ええと。その……相談役顧問は、悪い癖があるらしいの」

「悪い癖?」

見下ろされて、困った表情を見せる。

言いにくいなぁ。だってさぁ……。

「恋愛沙汰には首を突っ込みたがる……らしくて、からかわれる、らしい?」

無表情になった翔梧を見ていると、少し居たたまれなくなってもじもじした。

「面白い会社だなぁ」

いや。私のまわりの部署はいたって普通よ! 皆、ちゃんと仕事に真面目に取り組んでいる。

ちょっと葛西主任は特殊だし、それを言ったら唐沢さんも変わっているけど、そもそもあの二人は関わっている人が相談役顧問という、ちょっと普通の人じゃないから、仕方ないと思えてきたと言うか。

「まぁ、初っぱなから、あんなイタズラするような方だしな。うちの営業部長にも釘刺されてたが……」

あんなイタズラ? ああ、初回のミーティングの時に、レジュメの数字を改竄されたんだったわね。

「私は気を付けていたもの」

「俺がお前の会社の相談役顧問の人となりなんて解るかよ」

お互いにムッとしながら睨みあう。

それからお互いに溜め息をついた。

「……やめよう。なんだか意味がない」

それもそうだね。

「私も仕事に戻る。顧問行っちゃったし」

「そうだな」
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